肥満の患者さんの血管を探すのが苦手

看護師として働いていて、細身の患者さん・ふっくらとした患者さん・子ども・お年寄りなど、いろんな方の注射をする機会がありますよね。その時になにか困ったことはありませんか?そう、肥満の患者さんの場合・・・血管がみえない!!この悩みを持っているのはあなただけではありません。ぜひ今回の記事を読んで明日からの業務に生かしてみてください。

肥満の患者さんの血管はなぜみえないの?

肥満の患者さんの血管がみえにくいのは、皮下に脂肪が多く分布していることによることがもっとも考えられます。ではなぜ脂肪が多いと血管が見えにくいのかを考えていきます。

人間の皮膚の構造は、表層から「表皮」「真皮」「皮下脂肪組織」「筋層」の順に構成されています。注射の種類により、これらのどの層を標的に刺すかが変わってきます。なぜこういった標的とした深さに違いが出てくるのかというと、薬剤を注射する深さによって吸収のスピードが違うからです。それぞれの種類について紹介します。皮内注射は表皮~真皮を標的とします。皮下注射は皮内注射の次の深さの皮下組織を標的とします。静脈内注射は、皮下脂肪組織よりも深層の血管を標的に注射します。筋肉内注射は皮下組織の深層にある筋層に直接注射します。ここでの、肥満患者の血管を探すのが苦手という悩みの対象となっているのは、血管注射、つまり静脈注射のことです。いま紹介しましたように、静脈注射するには皮下脂肪組織より深層にある静脈を見つけて刺さなければなりません。この脂肪層が厚いと当然血管を見つけるのは難しくなります。しかし看護師というプロの職業である限り、血管が見えないから注射は無理、なんて言ってはいられません。次の段落では、血管をみつけるコツについて話していきます。

血管を見つけるポイントはどこにあるの?

血管が見えないタイプには2種類あります。前述しましたように、血管が深いところに埋まっていてみえにくいものと、血管が細いものです。腕関節の内側の血管はたいていの場合一本は見ることができるのですが、見えないときは、温かいタオルやお湯で腕を全体的に温めます。局所的にではなく、腕全体を温めましょう。しっかり温めたら、駆血帯を腕に付けて、患者さんに何度か手を握ったり開いたりしてもらい、血管を探します。温めたことで、血流が良くなり、血管も拡張して何もしないときよりは見つけやすくなります。

それでも見えてこない場合、指を使って探ってみましょう。血管があることを想定して静脈から血流が逆流するような方向でマッサージしてみましょう。血管は敏感なので、少しの変化で何らかの反応をすることがあります。肥満体型のかたは現代少なくないので、場慣れして徐々に自分のやり方のコツをつかんでいけると思います。また、皮下脂肪組織層が厚いことを考慮して、いつもより若干深く差し込むのを意識することもポイントです。

なぜ動脈ではなく静脈なの?

血管注射をするとき、動脈ではなく静脈に注射針を刺すのはなぜでしょう。もし動脈に打った場合、その地点から末端にしか効果は行き届きません。静脈の場合は、血流がいったん心臓へ戻り、また全身へ駆出されていくために効果に偏りがないのです。また、静脈と動脈では血管内圧にも差があり、動脈のほうが、圧力が高くなっています。また、血管壁も動脈のほうが厚く弾性があります。これらを考慮すると、動脈へ注射した場合、その部位からの出血のおそれがあります。こういった理由で血管注射をする場合には動脈ではなく静脈が選択されているのです。これは点滴についても同じです。点滴チューブの内圧より動脈内圧のほうが高くなっていると血液が逆流してしまいます。しかし抗がん剤などの局所を標的にした注射では、最初に述べた理由(注射部位から末端にのみ効果発現)を利用して動脈注射を行うこともあります。

看護師の業界用語

<カルシウムパラドックス>

血液中にカルシウムが不足すると、骨折しやすくなったり、骨粗鬆症になりやすくなったりします。しかし、血液中に余分なカルシウムが増えすぎることでも起こりやすくなる病気があります。尿路結石や動脈硬化などです。この血液中のカルシウムが増える原因がカルシウムの摂取不足であるという説を、カルシウムパラドックスといいます。原理としては、通常体内のカルシウムのうち1%は血液中や細胞などに存在していますが、この一定に保たれていたカルシウムの濃度がカルシウムの摂取不足により慢性的に減少すると副甲状腺ホルモンが常に分泌され、骨から過剰にカルシウムが溶かしだされて余分になってしまうという仕組みです。