医療翻訳家ってどんな仕事?

医療翻訳とはどんな仕事でしょうか?

この世の中に異なる言語がある限り、それを別の言葉に置き換えて理解するという作業はなくなることはないでしょう。ですので、翻訳者の需要は、いつの時代も途切れることはありません。機械翻訳も可能にはなりましたが、機械ではまだ、言葉の裏にある意味、その根底にある人間の思考の深いところまでを理解することができませんので、時には、おかしな翻訳をしてしまいます。技術がどんなに進歩したとしても、人間の脳がどうしても必要なのが翻訳、といえるでしょう。
その中でも、医療翻訳とは、文字通り、医学・薬学に関わる翻訳を指します。
例えば、医学論文、学会用の資料及び原稿といった学術文書であったり、あるいは、医療機器メーカーや製薬会社が新しい製品を開発し、厚生労働省等、各国の規制当局に承認申請を行う際に必要となる書類であったりします。規制当局から発令されるガイドライン、認可を受けた製品に関する取扱説明書、販売促進用の資料、医薬関連の書籍や学術誌の記事等も対象となります。医薬品や医療機器に加え、うがい薬、コンタクトレンズ装着薬、いびきに関しての防止薬といった医薬部外品、化粧品、サプリメント、バイオ関連のドキュメントの翻訳等も医療翻訳に分類されているのです。

医療翻訳の対象となるジャンルはどういったものでしょうか?

医療翻訳の対象となるのは学術系、医薬系、医療機器系、その他のジャンルになります。
学術系には、医学書、医学系ジャーナル、学会用の資料、原稿、医学論文等があります。
また、医薬系には、医薬品の研究開発や治験(医薬品もしくは医療機器の製造販売に関し、医薬品医療機器等法上の承認を得るための臨床試験)に関連するドキュメント、承認申請書類、販売促進資料等があり、医療機器系には、医療機器の研究開発や治験に関連するドキュメント、承認申請書類、機器の取扱マニュアル等があります。これらの3つのジャンルの他に、その他のジャンルとして、医薬部外品、化粧品、サプリメント、バイオ関連等があります。

医療翻訳の中で、特に需要があるのは、どのような内容のものでしょうか?

医学論文から医療機器の取扱説明書まで、医療翻訳の対象となるドキュメントはいろいろあります。それらの中でも特に多いのが、製薬関連の翻訳案件です。新薬の製造や販売に際し必要とされる様々なドキュメントの翻訳です。
ここでは、新薬開発における大まかな流れを押さえ、どのようなドキュメントが発生するのか理解していきましょう。
製薬会社は、まず「基礎研究」で新しい薬剤の候補を見つけ出し、動物モデルによる「非臨床試験」を行ない、人間を対象とした「臨床試験」に入ります。その成果を持って、規制当局に「承認申請」の書類を提出します。審査に通れば、いよいよ「製造・販売」の段階に入りますが、販売後も副作用等がないか「調査・報告」することが義務付けられているのです。
各段階におけるプロセスで発生する計画書、報告書、説明文書や申請書類等が、翻訳の対象となってきます。ですので、1つの新薬を生み出す過程の中で、必要となるドキュメントは膨大な数にのぼります。
生命にかかわる重要な内容であるがゆえに、翻訳にも、正確性とスピードが求められるのです。製薬会社の社内でも翻訳作業は行われてはいるのですが、やはり、それだけでは限界があるため、外部の翻訳リソースを活用していくというわけです。

どのようなドキュメントを翻訳するのでしょうか?

製薬会社から発注されてくる翻訳の中で、「治験」関連のドキュメントが、特に大きな割合を占めています。
大まかな具体例を挙げてみますと、準備段階における「治験薬概要書」、「治験実施計画書」や、被験者から同意を確認するための「説明文書」、「同意文書」があります。治験が実施される期間中には「症例報告書」、「有害事象報告書」、さらに治験が終わると「統計解析報告書」、「治験総括報告書」等があります。
プロトコール(Protocol)と呼ばれる治験実施計画書は、それだけで80 ~ 100ページとかなりボリュームがあります。また、治験総括報告書とは「新薬の承認申請に際して当局に提出する書類の中核」となるものなのです。プロトコールから始まる一連のドキュメントが、内容的に深くかかわってきます。
こうしたドキュメントを正確かつスピーディーに訳出するためには、医薬の専門知識はもちろんのこと、各ドキュメントにおける役割や構造、相互のつながり等も理解しておく必要があるのです。

医療翻訳の将来性はどうでしょうか?

日本での事業拡大を図る外資系製薬各社は言うまでもなく、日本の製薬会社も海外への展開や海外の企業や研究機関との共同開発に力を入れていますので、質の高い翻訳者に対する需要は以前よりもより高くなっているのです。日本の製薬会社が国内で開発した薬の販路を海外に拡大したり、開発の段階から英語ベースの国際共同治験を行うようになってくると、それだけ翻訳需要も増えます。スピード感をもって新薬を開発していく中で、国際競争力をつけるためにも、国際共同治験は今後さらに増えていくと見込まれています。