医療翻訳家のお仕事は資格ない?その大きな理由とは?


プロの医療翻訳家には、資格が必要でしょうか?必要らば、どんな資格でしょう?
「プロの医療翻訳家には、医者、看護師または薬剤師のような医療知識が問われる資格が必要でしょう?あるいは、何かの試験に合格していないといけないでしょう?」等と思われる方は少なくないはずです。
実は、国内の通訳や翻訳業務において、「通訳ガイド」だけが、無資格で請け負うことが法律で禁止されています。翻訳業務は、どの分野においても資格や認定の試験は一切ないので、資格等は必要ありません。そのため、経験や技量を問われずに誰でも「プロの翻訳者」を名乗り、翻訳業務を請け負うことが出来るのです。

医療翻訳家の翻訳レベルはどのくらいなのでしょう?

それでは、実際、上記のような状態で、医療翻訳家の翻訳レベルって、どのくらいなのかと疑問をもたれると思います。
資格が一切必要ない理由からか翻訳業界へ入りやすいせいで、この20年間で、急速に、医療翻訳業務に従事する人が増え、医学・製薬業界で「欠かすことのできない存在」になっていったのです。
その反面、経験年数等は問われないので、ほとんどの医療翻訳家のレベルが低いことにより、訳文の質があまり良くないことが多くみられます。そのため、依頼者側が根強い不満をももっているのです。さらに、「専門職」として、認識度の低い「医療翻訳」の報酬は低いままです。このような状況により、有望な人材が集まりにくくなっているため、レベルの高くない翻訳家ばかり増えていってしまっているという、悪循環が長年にわたって続いています。
科学技術文書の最も重要な役割は「情報を正確に伝えること」であり、特に、「医療翻訳」では、ほとんどの訳文の内容が人の生命に関する場合等であるので、誤訳は一つたりとも許されません。重要な箇所の誤訳や勘違い等を防ぐためには、高い「語学力」や「読解力」だけではなく、「幅広く深い専門知識」も必要なのです。また、正確で理解しやすい訳文に仕上げるためには「高度な翻訳技術」も必要不可欠となります。
しかし、上記の能力を習熟したとされる医療翻訳家は、現状としては、ほんの一握りしかいません。優秀な人材を育てて、医療翻訳全体のレベルアップをめざすために、「通訳ガイド」のような資格等の認定試験を実施し、「医学翻訳士」のような公的な資格が必要であると考えられます。

「医療翻訳」の資格認定制度を実施しがたい理由

「医療翻訳」の業界内で、統一した認定試験を実施し、合格者には資格を取得させるとすれば、下記のような問題が生じて来るのです。
まず、どの団体が実施するのでしょうか。試験を実施するのに、専門の組織が必要なのですが、「医療翻訳」の業界団体等には、存在していません。元々、翻訳業界全体でも「日本翻訳連盟」(JTF)、「日本翻訳協会」(JTA)、等の複数の団体が存在しますが、統一団体がありません。そのため、JTFやJTA、翻訳学校等が各々、独自の検定試験等を実施していますので、業界統一試験はないのです。
次に、資格認定試験や検定試験等を、どの団体が出題し評価するのでしょうか。実際に、「プロ」と呼べる優秀な医療翻訳家は、一握りしかいません。そのため、適切な試験問題を作成し、これが「正解」といった決まったものがない訳文の良し悪しを文脈に応じ、正確に、受験者の翻訳レベルを判定可能な医療翻訳家はほとんどいないでしょう。そういった状況から、どの団体が資格認定試験や、検定試験の実施をするにしろ、医療分野での翻訳試験の品質確保が困難であることを想像するのは容易です。
最後に、たくさんの種類のある「医療翻訳」を1つの資格取得でカバーすることはできるのでしょうか。単に「医療翻訳」と言っても、扱う内容や文書の種類がたくさんあります。大きく分けたとしても「論文翻訳」、「製薬についての翻訳」、「医療機器についての翻訳」、「その他」(特許、診断書等)という4つのジャンルがあり、どのジャンルもいろいろな領域に分けられます。さらに、「和訳」、「英訳」の2種類がどのジャンルにもありますので、「医療翻訳」と言われる範囲は、実に広いです。従って、1人の医療翻訳家が、あらゆるジャンルに習熟し、翻訳できることは不可能なのです。ですので、自分の専門に応じ、得意なジャンルだけに固執する翻訳家もいます。このような状況から、「医療翻訳」と一括りにした実技試験を実施したり、資格を与えたりすることに意味があるかどうかという疑問が生まれます。だからと言って、試験や資格をジャンルによって分けるのは、ものすごく項目があり過ぎて整理がつきません。

まとめ

「医療翻訳」に従事する人が急速に増えた現在、「医療翻訳」という翻訳の分野が、充分に確立してきました。この次の段階において、「医療翻訳」の質を確保し、向上させる業界統一認定試験制度を導入することによって、「医療翻訳」が「専門職」としての認識を広める必要があると考えます。