医療翻訳家として働きたいという翻訳に興味がある人が年々増えています。医療翻訳家は在宅でも可能な仕事で、自分のペースで仕事を受けられるので多くの人が働けます。しかし、医療翻訳家という仕事の将来性はどうなのでしょうか?
医療翻訳家は需要が高い
産業翻訳と呼ばれる分野の中で、ITや金融分野においては翻訳業も景気に左右されます。しかし医薬分野の翻訳は景気に左右されることがなく、年々その需要は伸びているといわれています。かつて起こったリーマンショックなどにおいても、他の分野では翻訳依頼が軒並み減少する中で医療翻訳だけは減少することはなかったといわれています。そのため、最近は他分野の翻訳家も医療翻訳家に転向することが増えているそうです。
医療翻訳の中では医学論文の翻訳も需要が途切れることはありませんが、それよりもさらに需要が多いのは治験に関する翻訳です。翻訳会社によっては、取り扱う医療翻訳の7割以上を占めている場合もあるくらいです。最近は医療翻訳の入り口として、特に治験翻訳について教える治験翻訳講座を開講している翻訳スクールも増えています。治験翻訳は、医療翻訳の分野の中ではたとえ文系出身で医学の知識がない人であっても学びやすいといわれています。そのため、まずは治験翻訳に慣れてから本格的に医療翻訳家として活動していこうと考えているのです。
人気が高い分野には、他にも医療機器やマニュアル、副作用に関しての翻訳があります。副作用は治験翻訳とも関係が深いのですが、治験翻訳に比べてより医学用語が頻出するので、治験翻訳よりも難易度は高くなります。医療機器やマニュアルにも独自の表現や翻訳があるため、ここから始めるというのは難しいでしょう。
医療翻訳家の将来性は?
世界中にはたくさんの国がありますが、その中で新薬を開発できる国というのはごくわずかです。その中で年間新薬創出数のトップとなっているのはアメリカで、それに次いで日本となり、日本で開発された薬は世界中の人々の健康に役立てられています。
日本政府では2013年に『医薬品産業ビジョン』を発表し、2015年には『医薬品産業強化総合戦略』というグローバルに展開することを見据えた創薬に関する戦略を発表しています。これに基づいて、国を挙げて新薬の開発に注力しているのです。
また、2016年には日本製薬工業協会から、『製薬協 産業ビジョン2025 世界に届ける創薬イノベーション』という、日本初の革新的な新薬が世界に存在感を示すためにどうしたらいいのか、というビジョンを描き発表されました。
新薬の承認が遅れるドラッグ・ラグという問題がありますが、それを解決するために行われる国際治験も増えているので、今後は製薬や治験に関する翻訳の需要が増えてくると考えられます。
また、最近増えているのが医薬部外品や化粧品、サプリメントの翻訳依頼です。健康食品やサプリメントなどは多くの会社で常に新しいものが開発され、効果が近いものでも多くの種類が発売されます。医薬品に比べて海外の物でも販売する際のハードルが低いため、多くの海外製品が日本で販売される分野です。そのため、翻訳依頼も増えていきます。
このように、医療翻訳家という仕事は十分な将来性のあるものです。
医療翻訳家という仕事の不安な点は?
それでは、医療翻訳阿として働く際に不安な点はあるのでしょうか?まず、医学という分野は日々研究が行われ、一歩でも進歩を重ねようとしている分野です。そのため今後新薬が開発されなくなるということはありませんから、治験翻訳などがなくなるという不安はありません。同様に、医学論文の翻訳などもなくなることはないでしょう。
しかし、独立して医療翻訳家として働く場合はまず仕事を見つけるまでが大変でしょう。翻訳を頼みたい企業のトライアルなどを受け、合格すれば仕事を得ることができますが、もし不合格だった場合は何もありません。何件も依頼を受け、問題なくこなしていけばその後は直接仕事を依頼してもらえるかもしれませんが、そのための実績を積むことができないのです。独立している医療翻訳家は翻訳した文字数に応じて収入を得るため、スタートラインに立つまでが厳しいところがあります。その覚悟をして始めなくてはいけません。
一方、会社に勤めて医療翻訳家として働く場合もあります。その場合は最低限の給料は保証されますし、仕事も会社に依頼されたものをこなすだけなので独立して行うよりも格段に楽ではあります。しかし、医療翻訳家が会社で働く場合はそのほとんどが契約社員として扱われるので、いつ契約が終わるかという不安があります。仕事も会社に言われた分はこなさなければいけないので忙しくなるでしょうし、どれだけ仕事をしても得られる給与は会社の規定に従わなくてはいけません。例えば独立して行うのであれば50万円もらえるはずの仕事をしても、会社勤めであれば30万円しかもらえないかもしれません。
独立して仕事をする場合と会社勤めで行う場合はデメリットとなる部分が大きく異なりますが、それぞれに不安に思える点があることを覚えておきましょう。
まとめ
医療翻訳家という仕事の将来性は明るいものがありますが、色々と不安な点もあります。しかししっかりと対処しておけば防げる可能性は高いので、不安に負けないよう準備をきちんとしてから医療翻訳家として活躍しましょう。